神事における黒と白の持つ意味
今回は、神事における黒と白の持つ意味についてお話しします。
これはあくまで私見ではありますが、ここに、一つの大胆な仮説を設けて話を進めさせて頂きます。
それは何かと言いますと、神を祀(まつ)る側としての、こちら側の顕界(けんかい、目に見える世界)の色は白色であり、祀られる方の、あるけれども見えない幽界(ゆうかい、世界は眼に見える世界と見えない世界とから出来ていて、その見えない方の世界の事)と言うか、神の側の方は黒で表現する、という仮説 です。
太陽の光の軌跡が示しますように、見える昼間の顕界の世界(地)は、正午を持って頂点とする白色の世界であり、その対極の子(ね)の刻によって象徴される、有るけれども見えない世界の(天)はまさに黒の世界となります。
この子午(しご)、陰陽の関係から、古来、神の乗り物として馬(午)がふさわしいものとされていて、しかもそれは白馬です。
絵馬奉納の由来
陽の動物の白馬を、陰の天なる神の黒の世界に奉納する。
その形が天地の理にかなった吉祥(きちじょう、幸先のよいこと)の型を為すからなのです。
昔から神社のあちこちで馬の奉納が出されてきた由縁です。
後に、実際の馬を奉納するのは大変なことので、これが皆さんご存知の、いわゆる「絵馬の奉納」へと変化していったのです。
さらに、白馬は捧げるというだけではなくて、顕界の陽のシンボルとして 陰である神の降臨される依り代(よりしろ、神霊の寄り付く対象物) としての機能を持つのです。
絵馬
だからこれを御神馬(ごしんめ)といったのです。
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恋愛成就を叶える鹿島の白馬祭
例えば鹿島神宮の白馬祭で白馬の上に御幣を立てて走るお祓いの神事にもその深い由縁を読み取る事ができます。
現在、この白馬祭の時、馬が疾走する石畳にハンカチを置いてこれを踏んでくれた物には願い事や特に恋愛成就の御利益がある、とのことでとても人気があるお祭りになっているようです。
ハンカチや布の敷かれた白馬祭
さて、今から約1300年余り前に、鹿島の大神は、 常陸の国鹿島神宮を 白鹿に乗って出発します。 鹿島立神影図
向かうは奈良、三笠の山の浮雲の峰にとどまるために出発しました。
そして有名な春日大社が創建されます。
問題はその白鹿のことですが「古社記」 によれば「常陸の国の御住処(おすまいどころ)より三笠山に移ります間、鹿をもって御馬となし…」とありますように白鹿が白馬の代わりであることがわかります。以上のようにこの世のを祀る側の色の基本が白であることは、白
馬(はくば)、白鹿(はきしか)、白鶏(はっけい)、白い御幣(ごへい)、を始め白木造(しら木造り)、瓶子(へいし)、白衣、
御幣(ごへい)
白袴(はっこ)、白足(しろたび)、襦袢(じゅばん)、手ぬぐいとその例はかぞえあげればきりがないほどです。
瓶子(へいし)
一般にこの白は斎戒(心身を清める) の意味とすることもありますが、何と言っても天に対する地の顕界の陽の表現として、白は誠にふさわしいものだということが言えます。
天皇陛下も、普段は黄櫨染(こうろぜん)というからし色の着物を召されるわけですが、それは嵯峨天皇の御代(みよ)から始まった中国伝来のものです。
大宝令(たいほうりょう、藤原不比等が作った古代の法律)では、祀(まつ)るものとしての天皇は必ず白色を召されたのです。
その古義を伝えて、今でも新嘗祭(しんじょうさい、その年の新穀を神にお供えし天皇自らも食される祭事)には真っ白なお服を召されるのです。
それから神社の本殿(祀られる側、神)に対する幣殿(へいでん、本殿と拝殿の間にある参詣者が幣帛をささげる社殿)、拝殿(祀る側、仕える側) の色は白すなわち白木とし、本殿の方は黒です。
また白羽の矢(地)を黒く丸い的(まと、天) に射(い)る流鏑馬(やぶさめ、馬に乗って走りながら鏑矢<かぶらや>で的を射る)のような奉射神事(ぶしゃしんじ、悪魔を祓う神事)も天地陰陽の黒と白としての深遠なる意味を表現しているのです。
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